セロリかホップのような独特のほろ苦さと奥行き感のある香りのスティックに、点火前から興味津津。点火直後は、漢薬調のコクのある、やや重めでスモーキーな香気がとろりと広がる。ところが時間の経過とともにすこしずつ、芳ばしくまろやかな甘みと、したたるようなジューシーなグリーンの気配が浮かび上がってくるのが面白い。それはエキストラバージンオリーブオイルの瓶の封を切った時のような、あるいは緑茶の缶を開けた時のような、あの軽く胸躍る感覚を想起させる香りでもある。そして燃え尽きた後には、ほのかなムスク調の甘みを含みつつも、落ち着いた印象の深く澄んだ緑を思わせる残り香。あたかも静謐の中にあって変幻自在にすすむ舞踊と組曲、気づけば消えている幻影を追うように、ついまた次の1本へと火をつけてしまう。実に秀逸。
ハチミツの匂いのお香。いわゆるハチミツのとろりとした感触の中にも、斜め上向きでやや鋭い半透明なツノ(おそらく花粉臭)がちゃんとついている、上等で濃厚な蜜の香り。
花の蜜、蜜蜂の巣の蜜、それは過去と未来の命と命をつなぐ祈り、言葉にも音にもならぬ記憶と切望を飽和限界を超えて託されたその果てにあって、とうとうまばゆい山吹色の粉や黄金色の流動体という神聖かつ奇妙な形質を伴うに至った、それらは実に稀なる具象。されば天のいと高きところに。あるいは深き淵のかたわらに。刹那と永遠、絶望と再生、そのすべてを溶かして。蜜の香り、今ぞひとたび高らかに。満ちましを。満ちましを。
official description: Honey
カスタードの香りのお香。というと、ビレッジバンガードやドンキホーテあたりでも売ってそうですが、いやいやそうじゃなくて、SYOEIDO の LISN による、カスタードの香りのお香なんです。点火前から見えないプディングがあふれてきそうな香りのスティックに、点火するとしばし焦げたカラメルの香り。やがて濃厚な卵黄とバニラの香りが加わって、たしかにカスタードクリームの香りに。火を消してからも、カラメルとバニラの香りがしばらく残ります。
でも、これ、誰がどんなときに使うんだろう...と、私は余計な事を考えだす。コドモのバースディパーティーにお招きされたお友達を迎える玄関?そんなイノセントでハッピーなシチュエーションには、もちろんさぞかしよく似合うだろうけれども、どうしたことか私の頭の中の妙な所には、 demolition という一語が浮かんだまま、くっついてはがれない。あの楽しかったパーティーから幾千幾万の昼と夜を経て、今ふたたび常ならぬ甘やかで心地よい幻想のいざないへと、今しも現実の戸板を踏みぬかんとする誰かの、青暗く湿った冷たい部屋の空気。おそらくそれはこの香りの補色でできた風景、次元の壁をぬるりと超えてひろがる色相環の、誰の目にも見えない中心の真向かい、この香りの幼く透明な指が、黙って指し示す対極の彼岸。
official description: Custard
チュベローズの香りを配したという鮮やかな紅色のスティック・インセンス。点火前のスティックからは濃い目のパウダリーな印象を受けましたが、点火後の印象はパウダーを通り越してトロリとしたヘヴィーな蜜のテクスチャへと変貌。香りはチュベローズ...も含んでいるけれども、ココナツのような乾いた甘さや線の細い香り・太い香りがより合わされて漂ってくる気配は、どちらかというとシングルフローラルよりはトロピック百花蜜といった風情。でも冠する名前はサンドリヨン、すなわちシンデレラ。透明なガラスの靴と、まったり重~い紅色の蜜。12時を越えたらいったい、何がどんなふうにどうなっちゃうのでしょう。なんだかサスペンスな予感。ちなみにインセンス・リストについていた "FEELING" と "TIME" のマトリックスでは、CENDRILLON は CALM (#850138), MOVEMENT (#850209) とともに "LUXURY" / "NIGHT" のマス目でリコメンドされていました。
official description: Tuberose
ここ数年、春先になるときまって、サクラの香りの芳香剤だとか入浴剤だとか、その手のものがスーパーやホームセンターにずらっとならぶようになりました。でも春の喜びを感じさせてくれる香り高い花なら他にも水仙、沈丁花、梅、フリージアと枚挙にいとまがないし、蓬餅や柏餅のように草や葉の香りで春を感じるという伝統だって日本にはあるわけで(いわゆる「サクラの香り」の正体だって、実際のところは花というより桜葉に多く含まれるクマリンの香りですよね)、「ヨモギの香り」「柏の香り」を銘打った香り商品がもっとふえてくれるといいのに、と毎年思う私であります。
だもんで、リスンの商品一覧に「ヨモギ」を見つけた私がそれを買って試してみるのは至極当然の成り行き。点火前のスティックを鼻に近づけると、パウダリーな香りの中にかすかに蓬葉の青い匂いがする...ような、しないような。そしていざ点火、するとみずみずしく温かなヨモギの香り...もほのかにするのですが、全体的にはオーセンティックでどちらかというと甘めの、いわゆる「お線香の香り」が強いような印象を持ちました。お寺の境内でヨモギを摘む春日和の気配、これはこれでなかなかに素敵なもの。
official description: GREEN / Mugwort
乳香(オリバナム)はご存じの通り洋の東西を問わず香原料として広く用いられてきた樹脂で、リスンのラインナップの中にも CLAIR (#850961, Olibanum)、AVENUE (#850231, Olibanum and Resin) など、いろんなところに顔を出しています。その中でこの OPAQUE SILVER は、白檀(サンダルウッド)と乳香をブレンドしたという、上品な薄紫色をした一品。点火直後は、うわっ!しまった!とあわてるほど強くパウダリーな匂いがしてびっくりしましたが、ほどなく穏やかな香りに戻り一安心。オフィシャルなディスクリプションでは「白檀」のほうが「乳香」より前に書かれていて、それはきっと乳香よりも白檀がベースに調香されているということなのだろうな、だとしたらかなりオリエンタルな印象なんじゃないかな、と予想していたところ、控えめな甘みと酸味のバランスが絶妙で、それはある種東洋的でもあり同時に西洋的でもあり、...いや、洋の東西などという些細なことにとらわれる必要など、そもそもないではないか...なんて心境についいざなわれるような、それは実に深く心を鎮め静かに励ましてくれる香りでした。日常使いをするには多少パワーが強すぎるけれども、いざという時にあると嬉しい1本、かもしれません。
追記:2010年2月時点で配布されていたスティック・インセンス一覧表でのディスクリプションは「白檀と乳香」でしたが、同時配布の月替わりのインセンス・セレクション・シリーズ「Dream and Color」のリーフレットでは、この OPAQUE SILVER はKYOKA (#850127), ELIZA ET ERIC (#850150) とともに12月の3本のうちの1本として掲載され、そこでのディスクリプションは(「白檀と乳香」ではなく)「パウダリーシック」となっていました。というわけで、二者併記↓
official description: CLASSICAL / Sandalwood and Olibanum, powderly chic
精油メーカーが異なれば同じ原料でも精油の香りにある程度の違いが出てくるのは当然というものの、「ジュニパーベリー」ほどその差がはっきりとしている精油はほかにあまりない(あとはパインくらいかなあ)と私は常々思うのですが、皆様いかがお考えでしょうか。ではリスンさんはどんな解釈を?ということで買ってみたのがこの1本。
ネズの木の葉を思わせるダークグリーンのスティックは、点火前は控えめなウッディ調の香り。点火直後は、あれっ?何かに間違って火をつけちゃった?と思うほど、一瞬強くワキシーな(蝋くさい)匂いが広がって、そのあとも紙が燃えているような 、どちらかというとインセンスっぽくない独特の燃焼臭が続きました。ところがしばらくすると、これは鼻がなれたのかそれとももともとそのように工夫して作られているのか、ジュニパーベリー=セイヨウネズの実をすりつぶしたような独特の香りと、針葉樹独特のヤニっぽい香りが、ちゃんと漂ってくるんですねえ。良くも悪くもまるで日本のお香じゃないみたい。何も知らされずに「はいこれ東欧のお土産、田舎の教会の近くで売ってたんだ」と手渡されたら、ふーん、なるほどねえ、たしかにねえ、いかにもそんな感じだものねえ、なんて納得してしまいそうな。逆に言うと、日本に暮らす日常を一瞬にして別世界に塗り替えてしまえるような、静かだけれどもパワフルな香りの一品でした。これもリピート決定かな。
official description: SPICE / Juniper berry
良い意味で予想を裏切ってくれた1本。ディスクリプションには英語で「Green woody, Japanese wind」、日本語では「イグサ」と書いてあって、ああ、日本の風をイグサの匂いで表現してみたということなのかなあ、でも青畳の匂いってインセンスで再現できるのかなあ、などといろいろ予想してみていたのですが、いざ点火してみると落ち着きのあるウッディノートをベースに気持ちが軽くなるようなハーバルトーンが重なり、その全体を貫きまとめるようにデリケートなアクアティックないしオゾニック・ノートと乳香のような抑制のきいたリモネン系のノートがほそーく漂うという、なかなかに複雑で秀逸な構造をもった香りを感じることができました。これで10本315円とは。すばらしいです。
乾草 hay の香りのインセンスはありますか?とお店の方に尋ねたとき、これが近いかもしれませんと薦めていただいたのが、麦わら色のこのインセンス・スティック。HARVESTという名前からするとイメージは秋の喜びといったところでしょうか、ややパウダリーで甘く華やかな印象を受けましたが、陽射しをたっぷり受けて乾いた麦藁が放つ、胸一杯に吸い込むとなんだかこっちの気持ちまで軽く明るくすこしくすぐったくなるような、あの香りもちらちらと、顔を見せてくれました。
official description: Wheat field
苔 moss の香りをフィーチャーしたリスンのインセンスにはほかにも REFLECT (#850269) や VISIBLE 023 (#851023) などがありますが、その中で最もライトなタッチに仕上がっているであろうものがこの DAZZLE。淡いモスグリーンのインセンス・スティックは、点火前はかすかなハーバル調の香り。点火直後はメロンのようなオゾニックノートがぱっと広がってちょっとびっくりしましたが、そのあとはオークモスやヴェチヴァーを思わせる定番mossy系の香りが軽やかに漂い、レジノイドといっても松柏や乳香などの鋭いピネン系ではなくバルサム・アンバー系のまろく甘く乾いた香りとあいまって、陽のあたる温かで明るい水辺の草原に、のびのびごろんと寝転がっているような印象を受けました。春先は花粉症で外に出たいけど出られなくて...なんて方は、閉めた窓越しの五月空をながめながら部屋で1本くゆらす、なんてのも、いいかも。どうでしょう?
official description: Moss and Resinoid

[gandha]